「メガネをかけると目が悪くなる」という誤解は根強くありますが、実際にはメガネは視力矯正だけでなく、目の健康を守るための重要な役割を担っています。しかし、その効果にはメリットとデメリットの両面があり、科学的な根拠に基づいた理解が不可欠です。今回は、メガネ装用が目に与える影響について、そのメリットとデメリット、そしてそれらを裏付ける科学的知見についてお伝えします。
メガネは紫外線から目を守ってくれますか?

はい、メガネは紫外線(UV)から目を保護する上で非常に有効です。紫外線は、UV-AとUV-Bに大別され、これらが目に過度に曝露されると、白内障や黄斑変性といった深刻な眼疾患のリスクを高めることが科学的に示されています 。また、急性の大量曝露は、光線角膜炎や光線結膜炎を引き起こす可能性もあります 。
UVカット機能を備えたメガネやサングラスは、99〜100%のUV放射をフィルターすることが示されており 、「UV 400」と表示されたレンズは、400nmまでのUV光線を完全に遮断する能力を持っています 。ポリカーボネートレンズにはUV保護機能が内蔵されていることが多いですが、他の素材のレンズにはUVカットコーティングが必要です 。
ただし、メガネは正面からのUVには効果的ですが、側面や上方からのUV侵入には限界があります。帽子と併用することで正面からのUVはほとんど防御できますが、側面からは10〜20%のUVが目に到達する可能性があります 。レンズ裏面に紫外線反射防止コートを施すことで、裏面からの反射紫外線を80%低減できることも明らかになっています 。
物理的な衝撃や異物から目を保護する効果はありますか?

はい、メガネは物理的な刺激や異物の侵入から目を守る重要なバリアとなります。ホコリ、花粉、汗、まつげといった小さな異物が目に入るのを防ぐ効果があり、特にICL(眼内コンタクトレンズ)手術後のデリケートな目を保護する上で必須とされています 。また、寝ている間の無意識な目の擦れや打撲によるダメージ軽減にも推奨されます 。
作業現場やスポーツなど、物理的な衝撃や飛来物が発生する環境では、保護メガネの着用が非常に有効です 。米国労働統計局によると、職場で年間約20,000件の眼の負傷が発生しており、その大部分は適切な安全メガネの使用で予防可能であるとされています 。安全メガネは、ANSI(米国国家規格協会)Z87またはZ87+認定を受けているものを使用すべきであり、これらは飛散物や鈍器による衝撃から目を保護することを目的としています 。通常の度付きメガネは、ANSI認定を受けていない限り、適切な眼の保護を提供しないことに注意が必要です 。
眼精疲労の軽減や視力維持にメガネは役立ちますか?

はい、適切なメガネの装用は、目の負担を軽減し、眼精疲労の緩和、さらには視力低下の進行を抑制する上で重要な役割を果たします。視力が悪いにもかかわらずメガネをかけない場合、常にピントを合わせようと目が必要以上に働き、目の疲れや頭痛を引き起こす可能性が高まります 。適切な度数のメガネであれば目が悪くなることはなく、むしろ目の負担を軽減し、視力低下を防ぐことに繋がります 。
デジタル眼精疲労(DES)は、スマートフォンやパソコンなどのデジタルデバイスの長時間使用に起因する視覚的および眼症状の総称であり、ドライアイ、かすみ目、頭痛などが特徴です 。DESの管理には、正しい人間工学に基づいたデバイスの使用、平均的なスクリーン時間の短縮、頻繁な瞬き、照明の改善、定期的な休憩、そして「20-20-20ルール」(20分ごとに20フィート離れた場所を20秒間見る)の遵守が推奨されています 。眼科医は、デジタル眼精疲労を軽減するために特別に設計されたレンズを推奨する場合もあります 。
ブルーライトカットメガネは本当に目に良いのですか?

ブルーライトカットメガネの効果については、現在、科学的なコンセンサスが得られていない、あるいは限定的であるという見解が主流です。複数のレビュー研究(Cochrane Database of Systematic Reviewsに掲載された研究を含む)によると、ブルーライトカット眼鏡は、少なくとも短期的には眼精疲労、目の健康、睡眠の質にほとんど影響を及ぼさないことが示されています 。
コンピューター画面などから放出されるブルーライトは、自然光から浴びる光のわずか1000分の1程度であり、ブルーライトカットレンズでカットできるのはそのうちのわずか10〜25%に過ぎません 。眼精疲労の主な原因はブルーライトではなく、長時間の近距離作業、不十分な瞬き、画面の明るさ、不適切な姿勢や距離など、他の要因が影響していると考えられています 。米国眼科学会は、コンピューター画面からのブルーライトが目に損傷を与えるという科学的証拠がないため、コンピューター使用のための特別な眼鏡を推奨していません 。
ブルーライトがメラトニン分泌を抑制し、睡眠リズムを乱す可能性は指摘されていますが 、ブルーライトカット眼鏡による睡眠改善効果についても、科学的根拠は限定的です 。就寝前2時間のブルーライトカット眼鏡着用で睡眠の質が改善したという研究報告もありますが 、これは全体的なコンセンサスとは異なります。また、ブルーライトのカット量を増やすと、レンズの琥珀色が強くなり、色の見え方に影響が出る可能性があります 。特に小児へのブルーライトカット眼鏡の使用については、日本眼科学会が推奨していません 。
メガネの物理的な問題やメンテナンスの注意点はありますか?

はい、メガネの性能はレンズやフレームの物理的特性、そして日常的な手入れに大きく左右されます。レンズは、フレームからの圧力、加工時の不適合、熱などにより歪みが発生することがあります 。特に偏光レンズはデリケートで、わずかな圧力でも歪みが発生し、性能を低下させる可能性があります 。一度強く入った歪みは取り除くことができません 。
ホコリが付着したレンズをそのまま乾拭きすると、摩擦でレンズ表面に傷がつき、コーティングが剥がれてしまうことがあります 。コーティングが剥がれると視界が悪くなり、買い替えの原因となる可能性があります 。レンズを拭く際は、まず水で汚れを洗い流し、ティッシュなどで水気を優しく拭き取った後、メガネ拭きで拭き上げる習慣が推奨されます 。フレームも熱や物理的な力で変形する可能性があり、これがレンズの歪みを引き起こす要因にもなります 。
まとめ
メガネは、紫外線や物理的な刺激から目を保護し、適切な視力矯正によって眼精疲労を軽減し、視力維持に貢献する多くのメリットを持っています。しかし、ブルーライトカット機能については科学的根拠が限定的であり、過度な期待は避けるべきです。また、レンズやフレームの物理的な問題、適切なメンテナンスの必要性、そして購入・維持コストや使用シーンに応じた使い分けといったデメリットも存在します。
目の健康を最大限に保護するためには、100% UVカットのレンズを選び、必要に応じて側面保護や裏面反射防止コーティングを施すことが重要です。特定の作業環境では、ANSI認定の安全メガネを着用し、通常のメガネでは代用できないことを理解しましょう。そして、最も重要なのは、定期的に眼科医の診察を受け、自身の目の状態に合った適切な度数のメガネを使用することです。ブルーライトカットに過度に依存するのではなく、デジタルデバイスの適切な使用方法(20-20-20ルール、適切な距離と明るさ、頻繁な瞬き、十分な休息)を実践することが、目の健康を守る上で最も効果的です。
よくある質問(Q&A)
Q: メガネをかけると目が悪くなるというのは本当ですか?
A: いいえ、適切な度数のメガネを正しく使用すれば、目が悪くなることはありません 。むしろ、目の負担を軽減し、視力低下を防ぐことに繋がります。メガネを外した時に見えにくく感じるのは、メガネをかけた状態に目が慣れたためであり、目が悪くなったわけではありません 。
Q: スポーツをする時に普通のメガネでも大丈夫ですか?
A: いいえ、スポーツの種類によっては、通常のメガネでは不十分な場合があります。特にボールや道具が飛んでくる可能性のあるスポーツでは、耐衝撃性のある素材で作られた安全メガネやスポーツ用ゴーグルの着用が推奨されます 。通常のメガネは衝撃に弱く、破損すると目を傷つける危険性があります。
Q: メガネのレンズがすぐに汚れたり、曇ったりするのですが、対策はありますか?
A: レンズの汚れや曇りは、視界を妨げ、目の負担を増やす原因になります。レンズを拭く際は、まず水でホコリや汚れを洗い流し、ティッシュなどで優しく水気を拭き取ってから、専用のメガネ拭きで拭き上げましょう 。乾拭きは傷やコーティング剥がれの原因になります 。曇り止めスプレーや曇り止め加工されたレンズも有効です 。
Q: 複数のメガネを使い分けるのは面倒ですが、必要ですか?
A: 目の負担を軽減し、快適な視界を保つためには、使用シーンに合わせてメガネを使い分けることが理想的です 。例えば、遠くを見るためのメガネと、パソコン作業や読書など近くを見るためのメガネ(老眼鏡や近距離用メガネ)を使い分けることで、目のピント調節の負担を減らすことができます 。
Q: メガネのレンズに傷がついてしまいました。修理できますか?
A: レンズの傷は、通常修理で消すことはできません。傷が視界に影響を与える場合は、レンズの交換が必要になります 。傷を防ぐためには、適切な手入れと、メガネケースでの保管を心がけましょう 。フレームの修理は可能な場合が多いですが、レンズの歪みや破損に繋がることもあるため、専門の眼鏡店に相談してください 。
院長より皆さまへ
院長の私は、自転車が大好きで、休みの日は知人達と長い距離を走っております。
ほとんどの自転車乗りはスポーツタイプのサングラスをかけております。
私のように近視の度数が入ったサングラスをかけている者もおれば、視力的な不自由が無くかけている者もおります。
これは走行中、虫やゴミなどの異物が目に飛入するのを防いでくれるからです。
つまり視力向上と言う意味だけではなく、目を守る機能がサングラスにはあるのです。
同じような理由で普段の日常生活でメガネをかけている方は、多くの外傷から自然と目は保護されております。特に活発な子どもたちはこの目を保護するというメガネの機能は重要となります。
メガネをかけ始めるという事は、視力向上のみならず目を保護するという役割もあるのです。